犬や猫が突然立てなくなった、ふらつく?考えられる緊急性の高い神経疾患と判断基準
犬や猫が突然立ち上がれなくなった、あるいはふらつく姿を見せたとき、多くの飼い主様は強い不安を感じるでしょう。このような歩行の異常は、単なる一時的なつまずきではなく、深刻な疾患のサインである可能性があります。特に、神経系に問題がある場合には、迅速な対応がペットの命やその後の生活の質に大きく影響することもあります。
この記事では、犬や猫が突然立てなくなったり、ふらつきを見せたりする際に考えられる主な疾患、それぞれの緊急性、ご自宅で確認すべきポイント、そして適切な受診判断の目安について解説します。
犬や猫が突然立てなくなる、ふらつく主な原因と緊急性
犬や猫の歩行異常は、様々な原因で起こり得ます。特に緊急性の高い疾患を以下に挙げます。
1. 椎間板ヘルニア
- 疾患の概要: 背骨の間にある椎間板というクッションが変性し、脊髄神経を圧迫することで、痛みや麻痺を引き起こす病気です。特に胴が長い犬種(ダックスフンド、シーズーなど)に多く見られますが、猫にも発症することがあります。
- なぜそのサインが現れるのか: 椎間板の逸脱により脊髄が圧迫されると、神経伝達が阻害され、後肢の麻痺や疼痛、協調運動失調(ふらつき)が生じます。重度の場合には、完全に立てなくなり、排泄も困難になることがあります。
- 緊急性: 非常に緊急性が高い疾患です。 軽度なふらつきや痛みだけであれば内科療法で様子を見ることも可能ですが、急に立てなくなった、あるいは麻痺が進行している場合は、数時間から半日以内に動物病院を受診してください。脊髄の圧迫が長く続くと、神経の回復が難しくなる可能性があります。
- 自宅でできる観察ポイント:
- 痛みのサイン(触られるのを嫌がる、唸る、震える)。
- 麻痺が片側か両側か、どの足に見られるか。
- 痛みに加えて排泄(おしっこやうんち)が自力でできないか。
- 足の裏や指をつねったときに痛みを感じるか(深部痛覚の有無)。
- 動物病院での診断と一般的な治療: 身体検査、神経学的検査に加え、レントゲン検査で椎間板腔の狭窄などを確認します。確定診断にはCT検査やMRI検査が必要になることがほとんどです。治療は内科療法(安静、鎮痛剤、抗炎症剤)と外科療法(手術による圧迫解除)があり、症状の重症度によって判断されます。
2. 脳疾患(脳炎、脳腫瘍、脳梗塞など)
- 疾患の概要: 脳の炎症、腫瘍、血管障害(脳梗塞や出血)などによって、脳機能が障害される病気です。
- なぜそのサインが現れるのか: 脳は体の運動、感覚、意識、行動などを司る重要な器官です。脳の特定の部位が障害されると、歩行のふらつき(運動失調)、旋回運動、顔面麻痺、眼振(眼球の異常な動き)、発作、意識障害など、様々な神経症状が現れます。
- 緊急性: こちらも非常に緊急性が高い疾患です。 意識レベルの低下、持続的な発作、急激な神経症状の悪化が見られる場合は、数時間以内に動物病院を受診してください。脳疾患は命に関わることも多く、早期診断・治療が重要です。
- 自宅でできる観察ポイント:
- ふらつき以外に、頭を傾ける、同じ場所をぐるぐる回るなどの行動が見られるか。
- 眼球が異常に揺れる(眼振)か、瞳孔の大きさに左右差があるか。
- 食事の摂取量や、水の飲み方に変化はないか。
- 意識レベルはどうか(呼びかけに反応するか、ぼんやりしているか)。
- てんかん発作が見られるか、その持続時間。
- 動物病院での診断と一般的な治療: 神経学的検査に加えて、血液検査、頭部のMRI検査やCT検査が確定診断に不可欠です。脳脊髄液検査を行うこともあります。治療は原因によって異なり、抗炎症剤、免疫抑制剤、抗てんかん薬、場合によっては外科手術や放射線治療が選択されます。
3. 急性中毒
- 疾患の概要: 何らかの毒性物質を誤って摂取してしまった場合に、全身に様々な症状が現れる状態です。
- なぜそのサインが現れるのか: 毒物の種類によって作用機序は異なりますが、神経系に作用する物質(例えば殺虫剤、一部の植物、人間用の医薬品など)を摂取すると、ふらつき、運動失調、筋力の低下、震え、痙攣、麻痺などの神経症状を引き起こすことがあります。
- 緊急性: 緊急性の高い疾患です。 毒物摂取が疑われる場合や、急激な神経症状が出現した場合は、すぐに動物病院へ連絡し、指示を仰ぎ、速やかに受診してください。摂取した物質の種類や量、時間帯が分かれば、獣医師に伝えるようにしてください。
- 自宅でできる観察ポイント:
- 毒物を摂取した可能性(身の回りにあるもの、散歩中の拾い食いなど)。
- 口の周りに泡やヨダレ、嘔吐物がないか。
- 摂取した物質のパッケージや残骸があれば、動物病院に持参する。
- ぐったりしている、意識が朦朧としているなどの症状。
- 動物病院での診断と一般的な治療: 問診が非常に重要です。摂取した物質が特定できれば、それに応じた治療が行われます。催吐処置(嘔吐を促す)、胃洗浄、活性炭の投与による吸着、解毒剤の投与(利用可能な場合)、点滴による対症療法などが中心となります。
4. 血栓塞栓症(特に猫)
- 疾患の概要: 体内で形成された血栓が血管を詰まらせ、その先の組織への血液供給を阻害する病気です。特に猫では、心臓病(肥大型心筋症など)が原因で左心房に血栓ができ、それが後肢へ流れて動脈を詰まらせ、突然の後肢麻痺を引き起こすことがあります。
- なぜそのサインが現れるのか: 後肢への血流が途絶えるため、筋肉が虚血状態となり、突然の激しい痛みと麻痺、そして後肢の冷感が現れます。
- 緊急性: 非常に緊急性の高い疾患です。 突然の後肢麻痺、激しい痛み、そして後肢が冷たく感じる場合は、数時間以内に動物病院を受診してください。血流が再開しないと、組織が壊死してしまう危険性があります。
- 自宅でできる観察ポイント:
- 突然、後ろ足を引きずる、立てなくなる。
- 後ろ足が触ると冷たい。
- 足の爪の周り(爪床)の色が蒼白になっているか。
- 激しい痛みのサイン(大声で鳴く、落ち着きがない)。
- 呼吸が速い、苦しそうに見えるなど、心臓病を示唆する他の症状。
- 動物病院での診断と一般的な治療: 身体検査で後肢の脈拍の触知不能、冷感、麻痺を確認します。超音波検査で心臓の状態と血栓の有無を確認し、血液検査で関連する異常値を確認します。治療は血栓溶解療法、抗凝固療法、鎮痛剤の投与、そして基礎となる心臓病の治療が中心となります。
自宅でのケアと注意点
ペットに突然の歩行異常が見られた場合、飼い主様ができることと注意すべき点があります。
- まずは安全な場所へ移動させる: さらに怪我をしないよう、落ち着いてペットを安全で安静にできる場所へ移動させます。無理に抱き上げたり、体を揺らしたりしないよう注意してください。
- 症状を詳細に観察し記録する: いつから症状が現れたのか、突然だったのか徐々だったのか、どの足に異常が見られるか、痛みがあるか、他の症状(嘔吐、下痢、震え、発作、意識の変化)は伴わないか、排泄はできるか、などを記録しておくと、獣医師の診断に役立ちます。可能であれば動画を撮影しておくのも有効です。
- 誤食の可能性を考慮する: 最近何か変わったものを口にしていないか、室内や庭で毒性のある植物や薬品がないかを確認してください。
- 無理に動かしたり、自己判断で薬を与えない: 原因が分からない状態で無理に動かすと、症状を悪化させる可能性があります。また、人間用の医薬品を自己判断で与えることは、中毒を引き起こす危険性があるため絶対に避けてください。
- 保温と体位変換(緊急時): 特にぐったりしている場合、体温が低下することがあります。タオルなどで優しく体を覆い、温めてあげてください。ただし、体を動かすことで痛みが伴う場合は無理に体を触らないでください。意識がない場合は、同じ体勢でいると床ずれなどを起こす可能性があるため、数時間おきに優しく体位を変えることを検討しますが、その前に必ず動物病院へ連絡してください。
まとめ
犬や猫が突然立てなくなったり、ふらつきを見せたりする症状は、椎間板ヘルニア、脳疾患、急性中毒、血栓塞栓症など、緊急性の高い様々な疾患のサインである可能性があります。これらの症状は、放置するとペットの生命やその後の生活の質に重大な影響を及ぼすことがあります。
ご自宅で観察できるポイントや、緊急性の判断基準を知ることは重要ですが、これらの情報をもとに自己判断で対応することは大変危険です。少しでも異常を感じたら、症状が軽度であっても、できるだけ早く動物病院を受診し、専門的な診断と適切な治療を受けるようにしてください。早期発見・早期治療が、ペットの回復にとって最も重要です。
【免責事項】この記事は、犬と猫の一般的な健康情報を提供することを目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個別の症状や健康状態に関する懸念がある場合は、必ずお近くの動物病院にご相談ください。この記事の情報に基づいた自己判断によるいかなる結果についても、当サイトは責任を負いかねます。