犬や猫が何度もトイレに行く、おしっこが出にくい?考えられる病気と受診の目安
はじめに:排尿のサインは健康状態を映す鏡です
大切な家族である犬や猫が、いつもと違う排尿の様子を見せたとき、多くの飼い主様は「どうしたのだろう」と心配されることでしょう。トイレに行く回数が増える「頻尿」や、排尿時に辛そうな様子を見せる、あるいは全くおしっこが出ない「排尿困難」は、単なる癖や一時的な問題ではなく、時に深刻な病気のサインである可能性があります。
特に、仕事や家事で忙しく、すぐに動物病院へ行く時間を確保するのが難しい飼い主様にとっては、自宅で信頼できる情報を得て、緊急性を判断するための材料が必要です。この記事では、犬や猫の頻尿や排尿困難といったサインから考えられる主な病気、それぞれの緊急度、そしてご自宅でできる観察ポイントや適切な行動について、獣医師監修レベルの正確さで解説いたします。
犬や猫の頻尿・排尿困難から考えられる主な病気
犬や猫の排尿異常は、泌尿器系の問題だけでなく、全身性の疾患によって引き起こされることもあります。ここでは、代表的な病気をいくつかご紹介します。
1. 膀胱炎(ぼうこうえん)
- 疾患の概要: 膀胱に炎症が起きる病気です。細菌感染によるものが最も一般的ですが、ストレス、結石、腫瘍などが原因となる場合もあります。特に猫では、原因が特定できない特発性膀胱炎が多く見られます。
- なぜサインが現れるのか: 炎症により膀胱の神経が刺激され、排尿回数が増えたり(頻尿)、排尿時に痛みを感じて排尿姿勢を長く取ったり、排尿をためらったりする(排尿困難)ことがあります。血尿が見られることも少なくありません。
- 緊急性:
- 緊急度は中程度ですが、放置すると悪化する可能性があります。 排尿時の痛みが顕著な場合や、血尿が多量に出る場合は、早めの受診が必要です。
- 特にオス猫の場合、炎症による膀胱内の細胞や結晶が尿道に詰まり、尿道閉塞を引き起こす可能性があり、これは命に関わる緊急事態となります。
- 自宅での観察ポイント:
- トイレに行く回数が増えたか。
- 一回の尿の量が減ったか。
- 排尿時に「キュン」と鳴いたり、辛そうな姿勢を取ったりするか。
- 尿の色が赤っぽい(血尿)か、濁っているか。
- トイレ以外での粗相が増えたか。
- 動物病院での診断・治療:
- 尿検査で細菌や結晶、炎症細胞の有無を確認します。必要に応じて尿の細菌培養検査も行います。
- X線検査や超音波検査で膀胱結石や腫瘍の有無を確認します。
- 治療は、抗生物質投与、抗炎症剤、鎮痛剤、食事療法など、原因に応じて行われます。
2. 尿路結石症(にょうろけっせきしょう)
- 疾患の概要: 腎臓、尿管、膀胱、尿道などの尿路に結石ができる病気です。結石の種類は、ストルバイト結石やシュウ酸カルシウム結石などが一般的です。
- なぜサインが現れるのか: 結石が尿路を刺激したり、物理的に尿路を塞いだりすることで、頻尿、排尿困難、血尿などの症状が現れます。特に尿道が細いオス猫では、尿道に結石が詰まりやすく、完全な尿道閉塞を引き起こすことがあります。
- 緊急性:
- 尿道閉塞が起きている場合は、極めて緊急性が高い状態です。 数時間以内に治療を開始しないと、急性腎不全や尿毒症、電解質異常を引き起こし、命に関わる場合があります。
- 排尿姿勢をとるのに全く尿が出ていない、食欲不振、嘔吐、元気消失などの症状を伴う場合は、すぐに動物病院へ連れて行くべきです。
- 尿は出ているものの、血尿や頻尿が続く場合は、早めの受診が必要です。
- 自宅での観察ポイント:
- 全くおしっこが出ていないか、少量しか出ていないか。
- 排尿時に長時間うずくまったり、苦しそうにしたりするか。
- 普段より多量の血尿が出ているか。
- お腹を触ると痛がるか。
- 食欲や元気がなくなってきたか。
- 動物病院での診断・治療:
- X線検査や超音波検査で結石の有無や位置、サイズを確認します。
- 尿道閉塞が起きている場合は、カテーテルを用いて尿道を確保し、閉塞を解除します。
- 結石の種類によっては、食事療法で溶かすことができるものもありますが、手術で摘出が必要な場合もあります。
3. 慢性腎臓病(まんせいじんぞうびょう)
- 疾患の概要: 腎臓の機能が徐々に低下していく病気で、高齢の犬猫に多く見られます。一度壊れた腎臓の組織は元に戻りません。
- なぜサインが現れるのか: 腎臓の機能が低下すると、尿を濃縮する能力が落ちるため、薄い尿を多量に排泄するようになります(多飲多尿)。このため、結果的にトイレに行く回数が増える(頻尿)ように見えます。初期には目立った症状が見られにくいこともあります。
- 緊急性:
- 緊急度は低いですが、進行性の病気です。 慢性的に多飲多尿の症状が見られる場合や、飲水量の増加が顕著な場合は、定期的な健康チェックが必要です。
- 急性腎不全や慢性腎臓病の急な悪化では、食欲不振、嘔吐、元気消失といった重篤な症状を伴い、この場合は緊急性が高まります。
- 自宅での観察ポイント:
- 水を飲む量が増えたか(普段のコップ何杯分、など具体的な目安を記録)。
- おしっこの量が増え、色が薄くなったか。
- 体重が減少しているか。
- 口臭が強くなったか。
- 食欲が低下しているか。
- 動物病院での診断・治療:
- 血液検査で腎臓の機能を示す数値(BUN、CRE、SDMAなど)を確認します。
- 尿検査で尿の比重やタンパク質の漏れを確認します。
- 超音波検査で腎臓の大きさや構造を確認します。
- 治療は、腎臓病療法食、輸液療法、薬物療法などによって、腎臓の負担を減らし、病気の進行を遅らせることを目的とします。
4. 糖尿病(とうにょうびょう)
- 疾患の概要: 血糖値をコントロールするホルモンであるインスリンが不足したり、うまく作用しなくなったりすることで、血糖値が高くなる病気です。
- なぜサインが現れるのか: 血糖値が高い状態が続くと、過剰な糖分を尿中に排出するため、尿の量が増えます(多尿)。これにより、喉が渇き、水をたくさん飲むようになります(多飲)。結果として、トイレに行く回数も増える(頻尿)ことになります。
- 緊急性:
- 緊急度は中程度ですが、放置するとケトアシドーシスなどの重篤な合併症を引き起こす可能性があります。 多飲多尿の症状が継続的に見られる場合は、早めに動物病院を受診し、診断を受けることが重要です。
- 食欲不振、嘔吐、ぐったりしている、呼吸が荒いといった症状が加わった場合は、緊急性が高まります。
- 自宅での観察ポイント:
- 水を飲む量と排尿量が著しく増えたか。
- 食欲があるのに痩せてきたか。
- 白内障などの目の変化はないか。
- 元気がない、活動性が低下したか。
- 動物病院での診断・治療:
- 血液検査で血糖値やフルクトサミン値を確認します。
- 尿検査で尿糖の有無を確認します。
- 治療は、インスリン注射による血糖値のコントロールが中心となりますが、食事療法も非常に重要です。
自宅でのケアと注意点
愛するペットが排尿に関する異常を示した場合、ご自宅でできる観察と注意点がいくつかあります。
- 排尿状態の記録: いつから、どのような症状(頻尿、排尿困難、血尿など)が見られるのか、具体的な回数、量、色、排尿時の様子(鳴き声、姿勢)などを記録しておくと、動物病院での診察に非常に役立ちます。スマートフォンで短い動画を撮影するのも良いでしょう。
- 飲水量の確認: 普段と比べて水を飲む量が増えたか、具体的な量を把握できると、病気の診断に役立ちます。
- トイレ環境の整備: トイレの清潔を保ち、いつでも排泄できる環境を整えてあげてください。特に猫の場合、トイレの不満が原因で粗相をしたり、排泄を我慢したりすることがあります。
- 安易な自己判断は避ける: インターネットの情報はあくまで参考であり、ご自宅での診断や治療はできません。症状が改善しない場合や、悪化の兆候が見られる場合は、迷わず動物病院を受診してください。特に、おしっこが全く出ていない、ぐったりしている、呼吸が荒いといった場合は、一刻を争う緊急事態です。
まとめ:異変に気づいたら、獣医師に相談を
犬や猫の頻尿や排尿困難といった排尿のサインは、日常の変化として見過ごされがちですが、膀胱炎、尿路結石、慢性腎臓病、糖尿病など、様々な病気の初期症状である可能性があります。特に尿道閉塞のように、数時間で命に関わる緊急性の高い疾患も存在します。
忙しい日々の中でも、大切なペットのわずかな変化に気づき、記録することは、早期発見と早期治療につながる重要な行動です。この記事で紹介した情報が、皆様がペットの健康状態を理解し、適切なタイミングで動物病院を受診するための判断材料となれば幸いです。どのような些細なことでも、心配な症状が見られた場合は、必ずお近くの動物病院にご相談ください。獣医師による正確な診断と適切な治療が、ペットの健康と長寿を守る最善の方法です。
【免責事項】この記事は、犬と猫の一般的な健康情報を提供することを目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個別の症状や健康状態に関する懸念がある場合は、必ずお近くの動物病院にご相談ください。この記事の情報に基づいた自己判断によるいかなる結果についても、当サイトは責任を負いかねます。