犬や猫が繰り返し嘔吐する、吐血が見られる?考えられる消化器疾患と緊急性の判断
犬や猫が嘔吐をするのは珍しいことではありませんが、その頻度や内容物、あるいは他の症状を伴う場合は、軽視できない体調不良や、思わぬ病気のサインである可能性があります。特に、嘔吐が繰り返されたり、吐血が見られたりする場合には、緊急性の高い疾患が隠れていることも少なくありません。
ここでは、犬や猫の繰り返し嘔吐や吐血から考えられる主な疾患、それぞれの症状や緊急性、そして自宅で飼い主様ができる観察ポイントについて解説します。
考えられる疾患とその緊急性
犬や猫の嘔吐の原因は多岐にわたりますが、繰り返し見られる場合や、吐血を伴う場合は特に注意が必要です。以下に主な疾患と対応についてご紹介します。
1. 急性胃腸炎 (急性胃炎・腸炎)
- 疾患の概要: 胃や腸の粘膜に急性の炎症が起きる状態を指します。
- なぜサインが現れるのか: 消化管の炎症により、食物の消化吸収が妨げられ、胃の内容物が逆流したり、腸の動きが過剰になったりすることで嘔吐や下痢が生じます。
- 症状: 繰り返し嘔吐する、軟便から水様便の下痢、食欲不振、元気がないといった症状が見られます。比較的軽い場合は、一時的な体調不良で自然に回復することもあります。
- 緊急性:
- 吐血を伴わない、一度きりの嘔吐で元気もある場合: 数時間程度、食事を抜いて様子を見ても良い場合があります。しかし、水分の摂取は常に可能にしてください。
- 24時間以上嘔吐が続く場合、飲水もできない場合、元気や食欲が著しく低下している場合、脱水症状(皮膚の弾力がない、歯茎が乾いているなど)が見られる場合: 速やかに動物病院を受診してください。
- 吐血を伴う場合: 後述の「吐血が見られる場合」を参照し、直ちに動物病院を受診してください。
- 自宅でできる観察ポイント: 嘔吐物の量、色、内容物(未消化のフード、胆汁、泡など)、嘔吐の回数と頻度、元気・食欲・飲水量の変化、排便の状態(色、硬さ、回数)を記録し、可能であれば嘔吐物の写真を撮っておくと、獣医師への情報提供に役立ちます。
- 動物病院での診断方法や一般的な治療法: 身体検査、血液検査、便検査、レントゲン検査、超音波検査などが行われます。治療は、制吐剤(吐き気止め)や胃粘膜保護剤の投与、輸液療法(点滴)、必要に応じて抗生剤などが用いられ、食事療法も重要です。
2. 消化管内異物
- 疾患の概要: 消化管(食道、胃、小腸など)の中に、食物ではない物が詰まってしまう状態です。
- なぜサインが現れるのか: 誤食した異物が消化管の通過を妨げたり、粘膜を刺激したり損傷したりすることで、嘔吐が引き起こされます。異物が完全に詰まってしまうと、消化管の内容物が全く流れなくなり、重篤な状態になります。
- 症状: 繰り返し嘔吐する(異物を吐き出すこともあります)、食欲不振、腹痛、元気がない、排便がない、などの症状が見られます。
- 緊急性:
- 異物誤食が疑われる場合(飼い主様が誤食現場を目撃した場合や、物がなくなっていることに気づいた場合): 症状の有無にかかわらず、速やかに動物病院を受診してください。特に、誤食から時間が経つほど、異物が消化管の奥に進んでしまったり、炎症や閉塞が進んだりして、治療が困難になる可能性があります。
- 繰り返し嘔吐しており、異物誤食の可能性がある場合: 緊急性が非常に高いため、直ちに動物病院を受診してください。腸閉塞は命に関わる状態です。
- 自宅でできる観察ポイント: 何を、いつ、どれくらい誤食した可能性があるか、嘔吐の状況、元気や食欲の変化を獣医師に伝えられるようにまとめておいてください。
- 動物病院での診断方法や一般的な治療法: レントゲン検査(異物が写る場合があります)、超音波検査が行われます。異物の種類や位置、症状に応じて、内視鏡による摘出、または開腹手術によって異物を除去します。
3. 膵炎
- 疾患の概要: 膵臓(消化酵素やインスリンを分泌する臓器)に炎症が起きる病気です。
- なぜサインが現れるのか: 膵臓が炎症を起こすと、周囲の組織を刺激し、激しい腹痛や嘔吐を引き起こします。特に犬では高脂肪食の摂取が引き金となることが多いとされています。
- 症状: 激しい嘔吐、激しい腹痛(お腹を触られるのを嫌がったり、祈りのポーズと呼ばれる姿勢をとったりすることがあります)、食欲不振、元気消失、下痢が見られることがあります。猫の膵炎は犬と比較して症状が非特異的で、元気消失や食欲不振が主で、嘔吐が目立たないこともあります。
- 緊急性:
- 重症化すると命に関わる病気であり、上記の症状が見られたら、時間外診療であっても直ちに動物病院を受診してください。
- 自宅でできる観察ポイント: 嘔吐の状況、腹部の張りや触診時の痛みの有無、元気や食欲の変化を詳細に観察し、獣医師に伝えてください。
- 動物病院での診断方法や一般的な治療法: 血液検査(膵酵素の測定)、超音波検査などが行われます。治療は、輸液療法、鎮痛剤、制吐剤の投与、食事管理が中心となります。
4. 腎不全 / 肝不全
- 疾患の概要: 腎臓や肝臓の機能が低下し、体内の老廃物が適切に処理できなくなる病気です。
- なぜサインが現れるのか: 腎臓や肝臓の機能低下により、体内に毒素が蓄積し、吐き気を引き起こすことがあります(尿毒症など)。
- 症状: 慢性的な嘔吐、食欲不振、多飲多尿(腎不全)、体重減少、元気消失などが徐々に見られることが多いですが、急性増悪(急激な悪化)では症状が急激に現れます。肝不全では黄疸(皮膚や粘膜が黄色くなる)が見られることもあります。
- 緊急性:
- 慢性的な疾患ですが、嘔吐や元気消失が急激に悪化した場合、または飲水もできず虚脱状態にある場合は、急性増悪や尿毒症の進行の可能性があるため、速やかな動物病院への受診が必要です。
- 自宅でできる観察ポイント: 嘔吐の頻度や量、飲水量・排尿量の変化、食欲、体重の変化、歯茎の色(貧血の有無)、目の色(黄疸の有無)などを観察し、記録しておいてください。
- 動物病院での診断方法や一般的な治療法: 血液検査、尿検査、超音波検査などが行われます。治療は輸液療法、食事管理、症状に応じた内服薬の投与など、対症療法が中心となります。
5. 中毒
- 疾患の概要: 有毒な物質を摂取してしまい、体内で有害な作用が起こる状態です。
- なぜサインが現れるのか: 毒物の種類によって異なりますが、消化管への直接的な刺激や、全身への毒性作用により、嘔吐が引き起こされます。
- 症状: 嘔吐のほか、下痢、よだれ、けいれん、虚脱、呼吸困難など、摂取した毒物によって様々な症状が見られます。
- 緊急性:
- 中毒が疑われる場合は、一刻も早く動物病院を受診してください。 摂取した物が不明な場合でも、急な体調不良や嘔吐が見られる場合は中毒の可能性があります。時間外診療であっても直ちに連絡し、指示を仰ぐべきです。
- 自宅でできる観察ポイント: 何を、いつ、どれくらいの量摂取した可能性があるか、空になった容器や包装があればそれも持参し、獣医師に伝えてください。具体的な症状の種類と程度も詳細に観察してください。
- 動物病院での診断方法や一般的な治療法: 摂取した毒物の種類や摂取からの時間に応じて、催吐処置(獣医師の判断で行われます)、吸着剤の投与、輸液療法、対症療法などが行われます。
吐血が見られる場合
嘔吐物に血が混じっている場合(吐血)は、消化管からの出血を示しており、多くの場合、非常に緊急性の高い状況です。吐血は、以下のような原因で起こることがあります。
- 消化管潰瘍: 胃や腸の粘膜に潰瘍(えぐれた傷)ができて出血している状態。
- 消化管内異物による損傷: 鋭利な異物を飲み込んだことで、消化管が傷つけられ出血している状態。
- 重度の胃腸炎: 炎症が非常に強く、粘膜が損傷して出血している状態。
- 腫瘍: 消化管内にできた腫瘍からの出血。
- 凝固障害: 血液が固まりにくくなる病気(中毒なども含む)。
緊急性: 吐血が見られた場合は、嘔吐物の色が鮮血であっても、コーヒーカスのように黒っぽい血液であっても(これは消化された血液を示し、上部消化管からの出血が疑われます)、直ちに動物病院へ連絡し、指示を仰いでください。時間外であっても、緊急対応が必要なケースが多いです。
自宅でのケアと注意点
嘔吐や吐血が見られた場合、飼い主様が自宅でできることは限られます。安易な自己判断は、病状の悪化を招く可能性があります。
- 獣医師への情報提供: 嘔吐物の状態(量、色、内容物、異物の有無)、嘔吐の頻度、元気・食欲・飲水量の変化、排便の状態、過去の病歴、投薬歴、最近の食事内容の変化、誤食の可能性など、できるだけ詳細に獣医師に伝えてください。可能であれば嘔吐物の写真や動画を撮っておくと良いでしょう。
- 無理な飲水や給餌は避ける: 嘔吐が続いている場合、無理に水や食事を与えると、さらに嘔吐を誘発したり、誤嚥(飲食物が気管に入ること)のリスクを高めたりする可能性があります。獣医師の指示があるまでは控えてください。
- 環境整備: 誤食の原因となりうるものは、ペットの手の届かない場所に保管し、普段から環境を整えることが重要です。
- 安易な市販薬の使用は控える: 人間用の薬や、獣医師の指示なしに市販の吐き気止めなどを与えることは、症状を悪化させたり、中毒を引き起こしたりする危険性があります。
まとめ
犬や猫の嘔吐や吐血は、単なる体調不良だけでなく、消化管の炎症、異物誤食、膵炎、臓器不全、中毒、腫瘍など、様々な病気のサインである可能性があります。特に、嘔吐が頻繁に繰り返される場合や、吐血が見られる場合は、緊急性が非常に高いため、迅速な獣医師の診断と治療が必要です。
「いつもと違う」と感じたら、まずは冷静にペットの状態を観察し、できるだけ早く動物病院を受診してください。早期の発見と適切な処置が、ペットの命を救うことに繋がります。
【免責事項】この記事は、犬と猫の一般的な健康情報を提供することを目的としており、特定の疾患の診断や治療法を推奨するものではありません。個別の症状や健康状態に関する懸念がある場合は、必ずお近くの動物病院にご相談ください。この記事の情報に基づいた自己判断によるいかなる結果についても、当サイトは責任を負いかねます。